才流(サイル)では、『先駆者に聞く、SaaS×パートナービジネスのリアル』と題して、パートナービジネスの先駆者の皆さまを取材し、パートナービジネスを進めるうえでのポイントや仕組みづくりのナレッジをご紹介しています。
今回は、株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)のパートナービジネスをご紹介します。
勘定奉行、そしてSaaSモデルの奉行クラウドシリーズで知られるOBCは、創業以来一貫してパートナービジネスを展開してきた企業です。
その歴史は40年以上。全国に、約3,000事業所の契約パートナーがいるといいます。
さらに同社は、パートナービジネスのさらなる飛躍を目指して、パートナーサクセスチームを発足。デジタルを活用したパートナー支援の強化や、新規パートナーとの契約促進を進めています。
パートナーと信頼関係をつくる仕組みや、手厚い支援体制。そして「OBCのチャレンジ」と位置づける、パートナーサクセスチームの取り組みについて、同社の森 猛さんと嶋村 悠佑さんに話を聞きました。
聞き手は、才流コンサルタントの桂川 誠です。
「パートナービジネスをどうしたら拡大できるかわからない」「パートナーが自社プロダクトを売りたくなる仕組みをつくりたい」と考える担当者は、ぜひお読みください。
才流では「適切なパートナーと契約したい」「代理店が売りたくなる仕組みをつくりたい」企業さまを支援しています。代理店販売でお悩みをお持ちでしたら、ご相談ください。
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創業から40年。一貫してパートナービジネスに取り組むOBC
桂川 はじめに、OBCのビジネスについて教えてください。
森 1980年に設立したOBCは、会計システム「勘定奉行」から始まり、40年以上に渡って、中堅中小企業を中心としたお客さまの基幹業務(会計・給与・人事)の効率化をご支援しています。
2018年からは、SaaSモデル「奉行クラウドシリーズ」の販売を開始しました。現在は、改正電子帳簿保存法やインボイス制度などの法令改正にともなう対応と、企業のビジネスプロセスのDX化を進める基幹システムとして、多くのお客さまにご利用いただいています。
そしてOBCの大きな特長は、パートナー戦略にフォーカスしていることです。事務機器系企業やSler、会計事務所など全国で約3,000事業所とパートナー契約を結んでいます。
桂川 「パートナービジネス一筋40年」に歴史を感じます。OBCでは、パートナービジネスにおいてどんなことを大事にしていますか。
森 パートナービジネスでは、パートナー企業のドメインビジネスが成功することを第一に考えています。
現に私たちのパートナー制度では、一度販売いただいたら継続した収益性を担保出来るライセンス形態をとっています。
パートナーのドメインビジネスにどれだけOBCの製品が貢献できるかを前提としており、「OBCの製品を売ってください」という営業はおりません。
嶋村 「顧客満足度を向上すること」を目的に、パートナーとOBCが協業する価値を双方が理解して、活動を進めることが大切です。
そのうえで、OBCのライセンスがパートナーのビジネス成長に寄与していく。三方良しでも、パートナー優先を心がけています。
森 何よりも、パートナーと信頼関係を築くことが大事です。
私は「どんなに良い製品・施策であっても、信頼関係がない人からの提案は取り合ってもらえないものだ」と考えています。
ですから、パートナー契約後に売上が上がらなくても、結果は急ぎません。2年、3年と時間をかけて信頼関係を作っていく。丁寧にお付き合いをするのが、OBCのパートナービジネスです。
OBCのパートナービジネスを体系化した「セールスリファレンス」
桂川 パートナーとの信頼関係を築くために、OBCではどのような取り組みをしているのでしょうか。
森 OBCの営業は、案件創出を目的としたセミナーの企画から商談同行時のデモンストレーション、クロージングまで一貫して担当します。
パートナーのビジネスのさまざまなフェーズを支援できる営業がいること。これが、お客さまがOBCを信頼してくださるポイントです。
営業は、日頃からサポートセンターへ入り、OBCの各サービスをご利用いただいているお客さまの声を聞き、お客さま理解に努めています。また、コミュニケーションのトレーニング、ビジネススキルの向上も欠かしません。
森 さらに2016年には、OBCのパートナービジネスの考え方、知見をまとめたセールスリファレンスを作成しました。
セールスリファレンスは、まず「信頼関係の構築」から始まり、「パートナープロファイルの方法」と、「セールス&プロモーション」「パートナー協業の進め方」と、全4章で構成されています。
とくに、パートナーの調査・分析を行うパートナープロファイルに関しては、10ページ近くページを割いていますね。
嶋村 リファレンスでは、パートナーの解像度を高めることの重要性と、その方法についても抜け漏れなく解説しています。
森 新人からベテランまで、すべての営業がリファレンスを持っています。毎日の業務のマニュアルとして活用するのはもちろん、OBCのパートナービジネスはどうあるべきか?と迷ったときに、立ち戻る原典のような存在でもあります。
桂川 パートナーセールスのあるべき営業活動の進め方を、ここまで型化している事例はあまり見かけません。まさに、パートナーセールス・イネーブルメントですね。セールスリファレンスを作成した背景を教えてください。
森 実は、各営業が属人的にノウハウを持ち、成功事例が共有されづらいという状況があったのです。
OBCのパートナービジネスがより成長していくためには、知見や情報を体系化し、共通の資産として活用していくべきだと考え、リファレンスを作成することになりました。
作成は、私と嶋村をはじめ、営業メンバー主体で関わりました。初版以降も、SaaSの情報といった新しい要素も追加しながら、年々アップデートを続けています。
桂川 目次を見ますと、2章という早い段階で「パートナープロファイル」に触れています。パートナーのプロファイルと分析を重視しているように見受けられますが、狙いを聞かせてください。
森 私たちは、新規のパートナーと契約をする前に、パートナーに対して仮説提案書を必ず提出しています。仮説提案書とは、パートナーのドメインビジネスとOBCの間で、どのような協業ができるかをまとめた提案書です。ですから、パートナーのプロファイルが重要になるんです。
リファレンスには、会社概要や沿革、OBCとの取引の有無、パートナーの主要取引先とそのビジネス内容、マーケティング活動など、事前に調査できる情報の種類を挙げ、それらの調べ方が書いてあります。また、パートナーに直接ヒアリングする際の方法も述べています。
さらに、完成したプロファイルから作成するモデル提案書も型化し、事例として紹介しています。
嶋村 パートナー契約をゴールにしたくないんです。契約はあくまで途中の過程ですし、重要なのは契約後の活動です。契約のプロセスでは、ロードマップを作り、両社の方向性をそろえながら、協業内容をディスカッションしていきます。
場合によっては、私たちが相手ではなく、OBCと契約する他のパートナーとの協業のほうが良いケースもありますし、OBC含め複数のパートナーと組むビジネスも選択肢のひとつになるかもしれません。そのような幅広い可能性を踏まえて、パートナーとのビジネスを提案しています。
マーケティングから導入後の保守まで手厚いサポート。OBCのパートナー制度とは
桂川 続いて、OBCのパートナー制度について教えてください。
森 パートナーの契約形態は、複数ご用意しています。まずは、奉行シリーズを用いたビジネスを対象とした「OBC Alliance Partnership(OAP)」です。ビジネスモデルにあわせたライセンスモデルを、4つ設計しています。
そして、奉行クラウドとのAPI連携ビジネスを行う、Connect Partner制度があります。おもに、SaaSメーカーの企業を対象としています。
そのほか、会計士、税理士などの士業の専門家に向けた制度(OBC 専門家パートナー制度、奉行認定社労士制度)もあります。
桂川 OAPについて、くわしく聞かせてください。とても手厚いサポート体制ですよね。商談同行だけでなく、新規顧客獲得に向けたプロモーション支援もされています。
森 マーケティングやナーチャリングの支援として、パートナーには当社のマーケティング部の知見を積極的に提供しています。
たとえば、セミナー集客用のメールマガジンのテンプレート、サービス紹介の動画やホワイトペーパーといったコンテンツ、さらにランディングページの素材なども提供しています。
ほかにも、マーケティングオートメーションの活用方法のご支援もしていますよ。たとえば、スコアリングの設定や、「このスコアのお客さまには、このタイミングでこのメルマガを送りましょう」のような、具体的なアドバイスをしています。
嶋村 リソースの問題もあり、マーケティングまで手が回らないという課題を持つパートナーは多いです。その部分をOBCがサポートし、パートナーのホワイトリストにアプローチすることを重視しています。
桂川 至れり尽くせりの支援ですね。
森 お客さまのご契約以降も、サービス導入はインストラクター部門、導入後の保守はサポートセンターでご支援します。案件創出から商談、導入・保守まで、どのフェーズをOBCが支援するかは、パートナーごとに設計しています。
パートナー向けサイトをリニューアル。テックタッチの支援&新規のパートナー契約を促進
桂川 OBCでは、2022年の秋にパートナー向けのサイト「OBCパートナーズネット」を大幅にリニューアルしたとうかがいました。どのような狙いがあったのでしょうか。
森 パートナーズネットは、パートナー向けの専用サイトとして運営してきました。一方で、パートナーを検討している企業さま向けの情報発信が少ないという課題があったのです。
そのようななか、デジタルの接点からパートナーを支援し、SaaSベンダーとのアライアンスや新規パートナーを増やすミッションを持つパートナーサクセスチームが立ち上がりました。これを機に、パートナーズネットを大幅にリニューアルしたのです。
パートナーを検討している企業さまにも、OBCがどのような情報・コンテンツを提供しているかがわかるようになりました。
桂川 なるほど。パートナーへの情報発信を増やすだけでなく、新規パートナーの開拓も目的だったんですね。
森 リニューアル以降、パートナー契約のお問い合わせを年間で250社ほどいただいています。これまで接点のなかったパートナーからも、「サイトを見て」とお問い合わせをいただきますので、リニューアルの効果を感じています。
森 また、パートナーの利便性向上のため、サイトのUI/UXも刷新しました。
現在、スマートフォンやタブレットで資料を見せながら商談するスタイルの方も増えています。パートナーズネットからすぐに必要なコンテンツをダウンロードして、商談で使えるような設計にしています。
さらに、MAツールでデータも蓄積しています。アクセスログやPV数、ダウンロードしたコンテンツとその数など、パートナーズネット内の行動履歴はすべてデータ化し、どのパートナーが何を活用されているかもわかるようになっています。
ゆくゆくは、サイト内行動にあわせて資料をレコメンドするような、情報提供の最適化ができればと考えています。
桂川 パートナーの行動履歴を可視化しているのですね。そこから、パートナーがアクティブかどうかもわかります。営業のリソース配分も最適化できそうですが、現在OBCの営業は何名くらいいらっしゃるんですか。
森 現在は、200名ぐらいですね。やはり約3,000事業所のパートナーがいるなかで、各パートナーがどんな情報を求めているか、どのような活動をしているかの把握は、営業個人の力だけでは難しいものです。
パートナーズネット上でパートナーの行動履歴がわかれば、パートナーに提案する資料や施策の判断ができるようになります。
データを分析し、「実際にお客さまとの商談や契約が進みそう」というタイミングで、パートナーサクセスチームから各拠点の営業にエスカレーションしていくことを想定しています。
桂川 パートナーの活動を見える化して、適切なアプローチをしたいと考えているメーカーは多いと思います。
森 OBCは全国に拠点を持ちますが、リソースが限られてしまうことは否めません。
ポテンシャルの高いパートナーには営業担当をつける。一方で、自走しているパートナーや、活動がゆるやかなパートナーには、インバウンドで情報を提供し、デジタルを使った手厚い支援を行う。デジタルと対面、両方のコミュニケーションから、適切な支援をしていく構想を描いていますね。
OBCとして、パートナーサクセスチームの立ち上げは大きなチャレンジなんです。40年以上、ずっとパートナービジネスを続けてきましたが、「ここでもう一段階発展していくべき」という意識があります。
OBCの製品に興味を持ち、OBCとのパートナービジネスに可能性を感じてくださるような企業と出会い、積極的にビジネスを創出していきたい。そして、OBCのパートナービジネスをさらに磨いていきたいですね。
パートナービジネスには正攻法しかない
桂川 おわりに、今後の展望を聞かせてください。
嶋村 まず、全体のマーケティングの方針からお話しますと、主力製品である奉行クラウドシリーズの認知拡大を第一に、「総務の担当者向け」「経理の担当者向け」のような、パーソナライズ化を意識したマーケティング活動を進めています。
嶋村 さらに今年から、インフルエンスファネル(※)向けの施策として、カスタマーサクセス推進室という組織が正式に立ち上がりました。OBCの製品をご利用のお客さまが参加できるコミュニティを設けて、口コミを広げていく活動を始めています。
お客さまから直接声を聞く機会ができたことで、UI/UXへのご意見や、普段の使い方など細かいヒアリングができました。
お客さま同士の交流はもちろんのこと、インストラクターや開発者にも新しい気づきがあり、相乗効果が生まれていると感じています。
※インフルエンスファネル:サービスの購入、契約後のユーザー行動、顧客数を三角形で表したもの。継続、紹介、発信/拡散の層で構成される。
一方で、パートナービジネスのマーケティングとなると、情報がまだ少ない状況です。パートナービジネスのマーケティングは、一般的なマーケティング施策から、ひと工夫もふた工夫も必要ですから、OBCとしてノウハウを貯めていきたいと思います。
将来的には、マーケティングでも営業のリファレンスのようなドキュメントをつくり、今後のパートナービジネスへつなげていきたいと考えています。
森 「信頼関係をベースに、パートナーのドメインビジネスをどう成長させていくか?」という、パートナービジネスの原理原則は変わりません。
もちろん、オンプレミスからクラウドサービスへシフトしたように、お客さまのニーズや市場の移り変わりを捉えながら、OBCのパートナービジネスのやり方が変わっていくこともあると思います。
それでも、私たちのパートナービジネスの原理原則が揺らぐことはない。パートナーと信頼関係をどう育むか、そしてパートナーが儲かるビジネスをどうやって進めていくか。愚直に取り組むことが大事だと考えています。
嶋村 びっくりするくらい、森さんと同じことを考えていました。
森 パートナービジネスに、正攻法以外はありませんからね。
桂川 おっしゃるとおりだと思います。本日は、ありがとうございました。
才流のコンサルタントが解説
40年以上の知見を冊子にまとめたセールスリファレンス、パートナー向けサイトを起点としたアプローチは圧巻でした。
「信頼関係をベースに、パートナーのドメインビジネスをどう成長させていくか?」という、パートナービジネスの原理原則は変わりません。
もちろん、オンプレミスからクラウドサービスへシフトしたように、お客さまのニーズや市場の移り変わりを捉えながら、OBCのパートナービジネスのやり方が変わっていくこともあると思います。
それでも、私たちのパートナービジネスの原理原則が揺らぐことはない。パートナーと信頼関係をどう育むか、そしてパートナーが儲かるビジネスをどうやって進めていくか。愚直に取り組むことが大事だと考えています」
オービックビジネスコンサルタント 森さま
OBCでは、「パートナーと信頼関係を構築する」というパートナービジネスの原理原則に向き合いながら、自社のビジネスを徹底して言語化。セールスリファレンスとして型をつくり、愚直に実行していました。
また、パートナーサクセスチームの立ち上げや、パートナー向けサイトのリニューアルに見られるように、会社全体でパートナーへの価値提供を最大化する取り組みを展開しています。
現状に甘んじず、つねに最善を尽くす。OBCがパートナービジネス一筋で成長を続ける理由が理解できました。
OBCの森さん、嶋村さん、ありがとうございました。
(撮影/関口達朗)