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直販チームとの分業で、パートナー開拓と育成に注力。新時代のSaaS×パートナーセールスに挑むカオナビ

SaaS企業が飛躍的に成長するための戦略として、パートナーセールス(代理店販売)やアライアンスなどのパートナービジネスが注目されています。

しかし、SaaSのパートナービジネスの事例はまだまだ少なく、「どのようにパートナーセールスを始めたらいいのかわからない」「契約した代理店が思ったより販売してくれない」などの課題は尽きません。

そのようななか、いち早くパートナービジネスに取り組み、成果を出しているSaaS企業や担当者がいらっしゃいます。才流(サイル)では、パートナービジネスの先駆者の皆さまを取材し、パートナービジネスを進めるうえでのポイントや仕組み作りのナレッジをご紹介していきます。

今回ご登場いただくのは、タレントマネジメントシステム「カオナビ」を提供する、株式会社カオナビの髙岡森生さんです。「パートナービジネスはやらない」という方針を転換した同社は、髙岡さん主導のもと、パートナーセールスチームを立ち上げ、直販チームとの連携体制を構築しました。パートナー開拓と育成をパートナーセールスチームが、商談同席以降を直販チームが担当する分業で、パートナー経由の受注を伸ばしています。

「パートナーセールスを始めるうえでの体制が知りたい」「自社のサービスと相性の良いパートナーを見つけたい」企業の方は、ぜひお読みください。

[カオナビのパートナーセールスのポイント]

  • パートナーセールスチームと直販チームで分業
  • カオナビと相性の良いパートナーを見つけるため、300社と面談
  • パートナーが活動しやすい環境(セールス資料の作成、契約・請求業務の体制など)をスピーディに構築
株式会社カオナビ アカウント本部 営業戦略部 部長 兼 企画推進本部
髙岡 森生さん
大手OA機器メーカーにて直販、パートナーセールスを経験後、Salesforce社のパートナー企業にてエンタープライズ領域のセールス、パートナーセールスに従事。2019年にカオナビ入社。2020年4月にパートナーセールスグループを立ち上げる。

商談同席からは直販チームが支援。カオナビのパートナーセールスは分業スタイル

ーはじめに、カオナビと髙岡さんの担当業務について教えてください。

髙岡 「カオナビ」は、組織で働く方々の個性や才能を可視化し、評価運用の効率化や人材育成、採用といった戦略的な人事活動を支援するタレントマネジメントシステムです。SaaS型のサービスとして提供していまして、現在は2,500社以上の企業に導入いただいています。(※2022年3月末時点)

私は2019年にカオナビへ入社し、エンタープライズ企業のフィールドセールスを経て、2020年4月に、パートナーセールスを担当するパートナーサクセスグループを立ち上げました。現在は、パートナーサクセスやインサイドセールスなどを支援する部署と、営業オペレーション業務を担当する部署のマネジメントを兼務しています。

ーカオナビでは、どのようなパートナープログラムを展開されていますか。

髙岡 カオナビのセールスパートナー制度(パートナープログラム)は、パートナーが提案から契約まで行う販売パートナーと、提案のみの紹介パートナーがあります。紹介パートナーの場合、商談からはカオナビが行います。

現在は、リクルートマネジメントソリューションズ、ミロク情報サービス(MJS)、キヤノンマーケティングジャパン、SB  C&Sをはじめとした各社様、約250社のパートナー様と契約しています。そのうち、アクティブに販売いただいてるパートナー様は10%くらい、という状況です。

ー現在、カオナビのパートナーセールスはどのような体制ですか。

髙岡 私を含めて担当者2名からスタートしたパートナーセールスは、現在5名体制になり、1名は大阪支社に在籍しています。

カオナビのパートナーセールスは分業です。新規パートナーの開拓や契約パートナーの育成、提案支援はパートナーセールスで行い、商談獲得以降の商談同席やカスタマーサクセスなどのプロセスは、カオナビの直販チームがサポートしてくれています。

株式会社カオナビ 髙岡森生氏

「直販のみ」から方針を転換。キャズムを超える次の打ち手にパートナーセールスを立ち上げ

ー立ち上げから、組織が大きくなり、体制も変化しているんですね。では、あらためてパートナーセールス立ち上げのきっかけを教えてください。

髙岡 2012年にカオナビの事業がスタートしてから、直販のみで順調に成長が続いていました。そのため、「パートナービジネスはやらない」という方針があったんです。

一方で、タレントマネジメントは新しい領域です。カオナビは、売上高100億円を目指すという、中期成長のグランドデザインを描いていますが、その実現にはアーリーアダプター層だけでなく、より多くのお客様へカオナビの認知を広げなければなりません。さらに競合サービスも登場するなか、次の打ち手が必要でした

そこに、「パートナーセールス」の選択肢が挙がってきたんです。マーケティング面では充分に投資をしていましたから、現時点では自分たちでできる打ち手をやりきっている。伸びしろがあるとすると「次はパートナーセールスだ」と、その可能性に期待を感じたタイミングでした。私からも「パートナーセールスを組織化するなら今かな」と働きかけました。

ー「パートナービジネスはやらない」という方針から、大きな転換があったのですね。

髙岡 実は、2019年にリクルートマネジメントソリューションズ様と販売代理店契約を結んだように、パートナー組織立ち上げ前から、一部のパートナー様とはお取引がありました。当時の私はフィールドセールスとパートナー様の担当を兼任していましたが、今より仕組みがないにもかかわらず、パートナー経由の契約が決まっていたんです。すると、「パートナーさんは頼りになる」という認識が社内に広がり始めました。そのような実績も、パートナーセールスの本格的な組織化に影響したのではないかと思います。

約300社のパートナー候補と会い、カオナビと相性の良いパートナーの解像度を高める

ーでは、パートナーセールスの具体的な立ち上げプロセスをうかがいます。まずは、どのようにパートナープログラムを設計されましたか。

髙岡 他社様のプログラムを調査し、現在の紹介と販売の2つのプログラムを作りました。OEMのようなパートナーアライアンスも考えましたが、まずはシンプルに多くのパートナー様とつながれて、納得感を持って契約いただける内容を目指しました

プログラムの運用を始めてから3年ほど経ちますので、パートナー様からフィードバックをいただき、必要に応じてよりよいプログラムに改善したいなと考えています。

ー続いて、パートナーの選定を教えてください。パートナーセールスでは、いち早く自社のサービスを販売してくれる「相性の良いパートナー」を見つけることが大切です。カオナビでは、どのようにパートナー開拓とその選定を進めていきましたか。

髙岡 ありがたいことに、パートナーセールス組織の立ち上げ以前から「『カオナビ』を販売したい」というお問い合わせをいただいていました。そのリストと、セールスパートナー制度の募集ページから、インバウンドでお問合せいただいたパートナー様と会っていきました。

ー何社ぐらいのパートナーと会ったのでしょうか。

髙岡 チーム立ち上げの2020年までに約300社と初回の打ち合わせをしました。当時は、「カオナビ」と相性の良いパートナーの解像度を高めたいと考え、お問い合せをいただいたすべての企業様とお会いする方針でした。

ーパートナー各社、得意分野がありますよね。パートナーの選定では、「この企業が合いそう」のような仮説を持って進めていたのでしょうか。

髙岡 仮説として考えられそうなパートナー様の事例はありました。しかしパートナーセールスは、成果が見えるまで時間がかかりますし、やってみないとわからないもの。一例に限らず、「カオナビ」との相性を検証していこうと考え、1年ほど時間をかけて多くの企業様にお会いしました。

すると、契約後のオンボーディングや商談支援のご相談の有無、受注までの時間など、反応の大小が見えてくるんです。次第に「このあたりの業種と相性が良さそうだな」と仮説がわかってきて、さらに仮説検証を続けていきました。

あくまで傾向としてですが、基幹系システムを自社で持つベンダー、HR系のコンサルティング会社、販売会社系のパートナー様がアクティブに販売いただいている印象です。

パートナーセールスと直販チームの分業から生まれるメリット

ーここからは、社内の体制作りを教えてください。インタビューのはじめに、「パートナーセールスチームはパートナーの開拓や提案支援を行い、商談同行やカスタマーサクセスはカオナビの直販チームがサポートしている」という、分業のお話をうかがいました。パートナーセールスでは、珍しい体制だと思います。

髙岡 カオナビ社内は、基本的にSaaSの直販に最適化されたThe Model型の組織になっています。パートナーセールスは別組織ですが、お互いの顔が見える規模感ですし、パートナーセールスの目的や会社のメリットを伝えると、みなさん快くサポートしてくれる文化がありますね。

あわせて、契約や請求まわりも、パートナーセールスで対応ができるよう、社内の各部署の皆さんと協力しながら、体制を整えていきました。既存のシステムを踏まえながら、「請求書の雛形はどうする?」「FAXでのお申し込みを受け付ける?」など、細かいところまで仕組み化しました。

私が個人でパートナーセールスを兼任していた頃から、まわりには少しずつサポートをお願いしていましたし、トップダウンのアプローチもありました。それもあり、今の体制の基盤は、チームの立ち上げから2、3か月ほどで構築できたと思います。

連携した分業で、それぞれの組織の専門性が発揮され、パートナーや顧客に途切れることのない支援ができている。

ーパートナーセールスチームと直販チームが分業することで、どのようなメリットが生まれていますか。

髙岡 まず、パートナーセールスによくある「直販と同じ案件を追っていた」というバッティングがなく、会社として案件を追えます。パートナー経由の案件もフィールドセールスの数字になりますし、担当者も前向きに「やります」となりやすいです。

パートナーセールス経由の商談には、必ずカオナビのフィールドセールスが同席するため、適切なデモや提案ができていますね。そのため、契約後のLTVも良く、チャーンが防げています

ー会社全体で提案支援ができるのは、素晴らしいですね。では、パートナーセールスチームでは、どのような数字を見ていますか。

髙岡 チーム立ち上げの初期は、受注数とMRR(Monthly Recurring Revenue)に重きを置いていました。直販チームのサポートを得られるようになってからは、パートナー経由の案件数を重視しています。その他にも、新規パートナー契約のお問い合わせやその面談数、契約数のほか、展示会での名刺交換や会った社数、人数も追っています。

私たちも、商談同席やカスタマーサクセスを直販チームに任せられたことで、比較的短期間でパートナーと対等に関われる準備ができました。やはり、パートナーと一緒にビジネスをやる以上、ベンダー側が整えておくべき資料や体制があります。「この資料ある?」などの問い合わせに、あうんの呼吸で対応できるようにしておくのが、ベンダー側の礼儀ですし、パートナーセールスをする上でのスタート地点だと思うんです。

パートナーセールスは、「お客様良し、パートナー良し、カオナビ良し」と関わる皆さんが良くなる三方(さんぼう)良しの仕事。社内とパートナーの調整は大変ですが、楽しく取り組んでいます。

パートナー内での認知向上に定例会と対面コミュニケーションは必須

ーパートナーセールスチームでは、パートナーと具体的にどのような取り組みをしていますか。

髙岡 重点パートナー様とは隔週、その他のパートナー様とも月1回は必須で定例会を行うようにしています。定例会では、新機能の共有やセールストークのアップデート、案件状況のヒアリングなどが中心です。パートナー様は全国にいらっしゃるので、コロナ禍が落ち着いてからは出張もしています。対面コミュニケーションも大切だと思うので。

やはり、定期的に接点を持ち、一定のコンタクト数がなければ、パートナー様も動いてはくれません。今、アクティブに販売してくださっている、とあるパートナー様は、毎月の定例会を2年続け、ようやく成果に結びついているんです。パートナー内でのカオナビの認知を高め、営業の頭の片隅にいつもカオナビがあるような関わりを目指しています。

ーここまでカオナビでは、とても理想的にパートナーセールスが成長していると感じます。社内の反響はいかがですか。

髙岡 パートナー経由の受注数が伸びていますし、社内の記録になるような単価の高い契約の実績も出てきました。そのような成長があり、パートナーセールスとしても予算がつき、これまで以上に社内からの協力も得やすくなりました。

たとえば、パートナーセールスは社内異動のメンバーのみでしたが、初めて中途採用で専任の担当者を採用しました。ほかにも、展示会でパートナーセールス専用のブースができましたし、マーケティング本部との定例会も始まり、ノベルティ作成なども相談して進められるようになっています。IRの資料にもパートナーセールスが登場しています。

成果が見えるまで時間はかかりましたが、社内に「パートナーセールスはレバレッジが効く施策だ」という実感が生まれ、評価につながっていますね。

「株式会社カオナビ 2023年3月期 第2四半期 決算説明資料」より(赤枠は才流が追加)

パートナーセールスは、パートナー、顧客、ベンダーの3社を幸せにできる仕事

ー終わりに、カオナビのパートナーセールスの展望を教えてください。

髙岡 私たちは、パートナーセールスをはじめとしたパートナービジネスを、パートナーサクセスと呼んでいます。パートナーサクセスの仕事は、パートナー、その先のお客様、そしてベンダーの3社がハッピーになる世界観を作ること。SaaS×パートナーの事例はまだまだ少ないので、カオナビのパートナーセールスから成功事例を作っていきたいです。

将来的には、東京・大阪・名古屋などの主要都市にパートナーセールスの部署を置きたいです。パートナー様の支店にふらっと立ち寄れるような関係性、体制は理想ですよね。一方で、新しいパートナーセールスの世界観も作りたいと考えています。対面コミュニケーションが重要だとお話ししましたが、パートナーセールスを全国に何人も配属することが、今の時代に本当に適しているか?は、別だと思うんです。

なにより、パートナー側の働き方やビジネスのあり方も変化しています。多くのパートナー様に「『カオナビ』を売っていきたい」「お客様へ提案したい」と思っていただけるような仕組み作りにも、自分たちが取り組む価値があると考えています。

そして、「SaaS×パートナーサクセスの成功モデルと言えばカオナビ」と第一想起されるような実績につなげたいですね。まだ確立していないプロセスを構築できるフェーズにいることは、やりがいになります。チームのメンバーにも今だからできる面白い経験をしてもらって、自身のキャリアに生かしてくれたらと考えています。

ーありがとうございました。

才流のコンサルタント・桂川が要点を解説

才流・桂川

カオナビのパートナーセールスの特徴は、パートナーセールスチームと直販チームで役割をわけ、連携している点です。

「パートナーセールス経由の商談には、必ずカオナビのフィールドセールスが同席するため、適切なデモや提案ができていますね。そのため、契約後のLTVも良く、チャーンが防げています」

カオナビ 髙岡さん

桂川 髙岡さんの言葉からは、フィールドセールスだけでなく、カスタマーサクセスからのサポートも手厚いことがうかがえます。

SaaS×パートナービジネスでは、「パートナーに売ってもらおう」ではなく、「私たちと一緒に売りましょう」「パートナーのビジネスも伸ばしましょう」の視点が大切です。

SaaSのセールスには、プロダクト売り切り型のセールスとは異なるスキルや知識が必要です。まだまだSaaSの販売に慣れていないパートナーが多いなか、ベンダーには一歩踏み込んだ「売っていく動機付けとサポート」が求められます。「自社のリソースが足りないから販売をお任せしたい」のような理由では、パートナービジネスの成功は難しいでしょう。

パートナービジネスの実態調査でも明らかですが、パートナービジネスは、人と人との関係から成り立ちます。プロセスを効率化しながら、関係づくりは泥臭く。ここはパートナービジネスの肝です。

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この記事の著者

才流・コンサルタント
桂川 誠 
東証プライム社員5,000人のメーカー系商社で、SE・法人営業を経て、10年超にわたりPMMとして事業を管轄。BtoBマーケティング全域およびアライアンスを展開後、全社のデジタルマーケティング戦略を担う。才流ではパートナー支援事業の責任者およびコンサルタントとして活動。ITサービス、製造業などの業界を中心に、BtoBマーケティング、パートナー戦略などの支援を行なっている。

この記事の編集者

才流・インハウスエディター
水谷 真智子
ウェブメディアの広告営業、EC系スタートアップとアプリゲーム企業のディレクターを経て、マーケティング領域専門のビジネスライターとして活動。マーケティング専門メディアでの担当記事は200件以上。2023年才流入社。ナレッジや先進事例を持つ企業の取材記事を担当する。
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